足あと〜part,2〜

Kaito's Roastery House

2024/05/22 02:27

フォロー

K「先生、オープンマイクってなんですか?」

C「オープンマイクも知らないの?w 飛び入りライブのことよ。」

K「飛び入りってよくお客さんがステージに上がるやつ?」

C「そうそう、いろんなライブハウスが月に1回オープンマイクの日を設けてイベントを開催してるの。」

 

ここで初めてオープンマイクという存在を知るkaitoさん。

知ったところで、どのライブハウスに行った方が良いのか分からなかったから先生に聞いてみると、

 

C「バンターハウス(即答)」

K「バ、バンターハウス、、、ほぅ。(どこだそれ)」

C「そこにスキンヘッドで身長180cmくらいで体格も大きくて強面オーナーTさんが居るんだけど、プロ目指しているって言えば容赦無くアドバイスや感想言ってくれるから絶対そこに行って。私がある程度Tさんに話しておくから!ちなみに今週の木曜日がバンターハウスのオープンマイク日。絶対行ってね」

K「今週の木曜日はバイトが…」

C「絶対行ってね?」

K「はい…。」

 

 

19:45、雨上がりの木曜日。

 

 

なんとかバイトのシフトを代わってもらい、

謎の自信と財布だけ持って恐る恐るバンターハウスへ。

よしっ、と一言だけ呟いていざお店の扉を開くと、、、

 

T「いらっしゃ〜い」

 

そこには音響席に腰をかけている噂通り強面Tさんの姿が。

先生が言っていたのとは真逆で細身の方だった。

先生に無駄にビビらされていた。

早い時間に行ったのもあって、タイミング的にお客さんはゼロ。

大きなスピーカーから微かに流れているゲスの極み乙女の音楽。

どこか懐かしいスモーキーな香りが漂う薄暗い店内。

 

K「あ、初めまして、、、kaitoと申します」

T「あー!来てくれたんだね!Cから話は聞いてるよ。」

K「ありがとうございます、初めてで何も分かっていなくて、、、、」

T「大丈夫だよ!んじゃ早速音源ちょうだい。」

K「お、音源、、、?」

 

 

そう、

オープンマイクって自分で披露する楽曲(カラオケ音源)を用意して行かなくちゃいけないんです。

カラオケボックスじゃないから今考えれば当たり前ですがw

まぁその当時の僕はそんなこと知る由もなく、本当に謎の自信と財布しか持っていなかった。

 

T「そう、音源。ん?まさか持ってない?」

K「はい、、、すみません」

T「しょうがないな。キミの好きなアーティストは?」

K「DA PUMPさんと、三浦大知さんと、、、」

 

〜2分後〜

 

無表情でPCをカタカタしているTさん。

T「あ、あった。三浦大知の”別れのベル”って曲知ってる?」

K「別れのベル!はい!歌詞を見なくても歌えるくらいには知っています!」

T「よし、カラオケ音源あるから歌ってみな。」

 

そこで初めて歌を歌うためにステージに上がり、マイクを握った。

そして初めて歌った歌がその”別れのベル”。

 

絶対頭が真っ白になって歌詞どころかメロディーも出て来なくなると思っていたけど

音が流れ始めると意外にも日常の空気がそこに流れて、自分自身が音の中に溶け込んでいく感覚がしっかりあって、気がつくと1曲終わっていた。

 

曲の余韻がはっきり見えるほどに静まり返っている店内。

自分と音響席に腰掛けているTさん、2人だけの空間。

ステージ上の僕は一気に現実世界に引き戻された感覚でどうしたら良いのか分かっていない。

なぜか怒られるのではないかという恐怖に包まれていた。

体感で言うと5分は沈黙が続いた。

 

ずっしり重たい空気を切り裂くようにTさんが口を開く。

 

 

 

 

 

T「キミ、本当にステージで歌うの初めて?」

 

 

 

 

 

冷静に考えると褒め言葉ってわかるんだけど、

その時の自分はもう罵声を浴びせられる覚悟だったから

言っている言葉の意味が理解できていなかった。

 

ただ、初めてなのには変わりないから

「はい、初めてです、、、」

としょんぼり気味に口をひらくkaitoさん。

 

T「ふーん、面白いね。これからが楽しみだ。」

 

笑みをこぼしながら独り言かのように呟くTさん。

その時初めて褒められたんだと気づく。

そして間髪入れずTさんが問いかける。

 

T「プロ目指しているんだよね?」

K「はい、目指しています!」

T「そうか、今18歳なんだっけ?」

K「19です!」

T「ほぉ。申し訳ないけど諦めた方がいいね。」

K「、、、」

T「勘違いするな、諦めて欲しいとは言ってない。」

 

その言葉はTさんなりの愛情表現でした。

プロの世界はキミが思っているより甘くないよと。

 

その言葉がきっかけとなり2時間ほど生い立ちや夢など色んな話をして行く中で、

バンターハウスは週に一回、毎週木曜日にオープンマイクをやっている事を知り、

来週も行くと約束を交わした。

 

それからはちゃんと自分で音源を用意して、チャレンジしたい楽曲を毎週トライして、

Tさんから心が折れるほどのダメ出しをくらって、夢と現実のギャップに耐えられなくなって、

悔しくて泣きながら帰った日もあったけど、必ず毎週行って、またトライして、、、。

気がつくとこんな生活を約8ヶ月ほど続けていた。

 

 

 

 

その日も

「この曲をトライして、今日こそは絶対に褒められてやる。」

といつも通りに意気込んでお店に着く。

「Tさん!今日はこの曲にチャレンジしたくて!!」

かなり前傾姿勢なkaitoさん。

いつもなら

「よし!今日も覚悟しなよ(ニヤリ)」

といった雰囲気のTさんだが

今日はなんだかいつもと違って表情が曇り気味。

 

T「ほい、じゃあステージ行ってごらん」

と僕と目も合わせず音源だけ受け取り、ボソッと話すTさん。

変な違和感を覚えつつも、いつも通りステージへ。

 

そして1曲歌い終える。

 

あたかも違和感に気づいていないふりをしつつ、

「どうでした!?」

と、いつも通りのテンションで話しかける。

 

T「うん、、、まず先にキミに伝えないといけない事があってね。」

 

K「え、なんですか?」

 

 

 

-----------part,3へ続く-----------

ページを報告する

コピーしました

有料会員になるとオーナーが配信している有料会員限定のコンテンツを閲覧できるようになります。

Kaito's Roastery House ¥1,600 / 月

会員登録する

コピーしました